BANANA FISH(作者:吉田秋生)

英語の偏差値45の私を、
無謀にもNY留学させてしまうほど
好きなマンガ。

■BANANA FISHとの出会い
私とBANANA FISHとの衝撃的な出会いは、今からおよそ20年前。高校3年の夏でした。
当時、四国の片田舎に住んでいた私は、東京に進学して原宿や渋谷を闊歩するのを夢見て、当時大流行していたルーズソックスとミニスカートにうつつを抜かすことなく、学校規定のくるぶしソックスにひざ丈スカートで勉強に精を出していた、俗にいうダサい女子高校生でした。(こんな田舎でルーズソックスやミニスカートを履いたって意味がない。原宿や渋谷でない限り意味がないんだ!とひねくれ者になっていて、コンプレックスの塊だったんですね~)

受験勉強の唯一の息抜きは、ファッション誌と少女漫画。non-noやオリーブをめくっては、原宿や渋谷の街を歩く自分の姿を妄想し、上京したら竹下通りでスカウトされるかも~と甘い夢を見る。少女漫画を読んでは、都会の高校生たちのお洒落な色恋沙汰に目をうるませながらキュンキュンする。…そんなぬる~い世界に浸かっている時に、BANANA FISHに出会ったので、衝撃は半端なかったです。「マジ?これ?少女漫画?!!!壮大すぎるーーーー!」と読み進めるごとにハマっていきました。

■大号泣が続く日々。少女漫画の域を超えたBANANA FISH。
BANANA FISHは、クラスメートから借りた漫画でした。当時、女子校に通っていて、クラス内では漫画の貸し借りを頻繁におこなわれており、ザ・少女漫画からお笑い系、エロ系、BL系までさまざまな種類の漫画が飛び交っていました。

私は、いわゆる学園恋愛漫画のザ・少女漫画が好きで、特に絵がキレイなものが好きだったので、最初に手渡されたとき、あんまり気が進まなかったのですが、自宅に200冊以上の漫画蔵書をかかえるフリークに「これはマジ面白い。一番にあんたに貸すから、とにかく読んで。学校で読んだらダメだよ。家で落ち着いて読んで」と、結構なプレッシャーをかけられて借りたのがはじまりでした。

そして、どっぷりハマりました。BANANA FISHはコミックス全19巻で、私は2日おきのペースで2冊ずつ借りて読み進めたのですが、学校に行くのが待ち遠しくて、土日が恨めしかったです。借りるのが待ちきれなくて、10巻超えたあたりで本屋に走り、自分で買い集めはじめました。

ネットでBANABA FISHに関するスレットでも多いのが「衝撃を受けた!」という声です。まさに、私もそう!それまで、少女漫画といえば、恋愛ものが定番だったので、設定のスケールの大きさにびっくりしました。ストリートキッズグループ、マフィア、麻薬、レイプ、血みどろの抗争、政治など、少女漫画とは思えない設定に読み手は翻弄されつつ、複雑な人間関係と、仲間同士のそれぞれの立場のなかでの葛藤や情が交錯していくのですが、後半はほぼ号泣しっぱなしです。

 

■BANANA FISHの魅力
ニューヨークのスラムでストーリーキッズのカリスマ的ボスとして君臨する、IQ180以上の天才的な頭脳と美貌を持つ主人公のアッシュ・リンクスが、ある日、狙撃された男から「バナナフィッシュ」という言葉とともにペンダントを手渡されたことから、ストーリーは動き始めます。

ベトナム戦争がきっかけで廃人になってしまった兄が「バナナフィッシュ…」と時折口ずさんでいたことから、不審に思い、調べ始めることで、大きな渦に巻き込まれていきます。深まる謎を追いかけていくミステリーと、大人との頭脳戦が、読んでいてハラハラします。そこも魅力なのですが、ついつい号泣してしまうのが、主役のアッシュと、日本からやって来た高校生・英二との関係です。

この2人の、友情を超えた恋人同士のような、それ以上の関係の深い結びつきがたまならく切なくて、泣けるのです。深い傷を負った孤高・アッシュに寄り添い続ける、ピュアな英二。読み進めるほど明らかになっていく、アッシュが抱える心の傷と闇のワケ。

回を追うごとに号泣です。泣きじゃくってしまうので、1冊読み終えるごとに頭が痛くなるので注意が必要です。特に誰かと同居されている方は読後の姿を見られないようにお気をつけください。私は実家だったので、号泣しながら漫画を読む姿を幾度となく母親に目撃されたり、目を真っ赤にはらして食卓についたりするので、呆れられていました。
ちなみに、アッシュと英二、このふたりに肉体的な関係はありません。私はBL系漫画が苦手で生理的に受け付けないのですが、なぜ苦手なのか、この漫画を読んでわかったような気がします。

■私をニューヨークへ駆り立てたワケ
BANANA FISHは、棒高跳び選手だった高校生・英二が、成績の伸び悩みがきっかけで、カメラマンの叔父に連れられて気晴らしにニューヨークへ渡ったことから物語が動き始めます。

この「高校生」であったことが、私がはまった理由のひとつでもあります。完全に英二に自分を投影していました。さえない高校生が、些細なきっかけでスペクタルな世界に巻き込まれていきます。田舎で平々凡々な生活をしていたコンプレックスの塊の当時の私は、「ニューヨークに行けば、きっと私もドラマチックな人生がはじまるはず!」と単細胞的に思い込み、「ニューヨーク大学に進学するしかない!」と無謀な試みに出て、早々に玉砕しました。

というのも、その当時、私は高校3年の夏。海外の大学に進学するなら、その時点でTOEFLを受験して一定のスコアを上げなければならないのですが、私の英語偏差値は45と底辺でお話になりませんでした。また、アメリカの有名大学は、地元出身者でなければ、学費がびっくりするくらい高く1000万円以上もかかることも知り、速攻で断念。

そんな私が、ニューヨーク留学を実現できたのが、大学入学後の語学留学です。実はBANANA FISHを完読後、ニューヨークが対象になる大学を探しまくり、その大学進学に向けて勉強に邁進。晴れて希望大学へ進学すると、夏休みにはニューヨーク語学留学に参加し、それ以外の時期は1か月の留学費用を貯めるべく、せっせとバイトに励む…という大学生活を過ごしていました。

英語は案の定苦手なままで、はじめて1か月の留学に出かけるときは、かなりビビっていましたが、行くとなんとかなるものです。しかも英語の勉強はほどほどに、BANANA FISH巡礼に出かけてニューヨークを満喫していました。

■ニューヨークに行くなら、やっぱり市立図書館!
地下鉄、セントラルパーク、ワシントンスクエアパーク、自然史博物館、チャイナタウン、少し足を延ばしてケープ・コッド…。BANANA FISHを読んでめぐるべき場所はたくさんあるのですが、やっぱり何度も行ってしまうのがニューヨーク市立図書館。主人公のアッシュが一人になりたい時に足繁く通う場所であり、ラストシーンになる場所です。

日本の図書館にはない、まるで美術館のような重厚な佇まいがすばらしく、誰でも自由に中に入れて、座って本などを読むことができます。図書館の中は、独特の重みのある静寂が満ちていて、ラストシーンを思い起こしては、しんみりしてしまいます。図書館から出た後は、アッシュと英二の真似をして、ホットドックスタンドでホットドックを買って食べます。

BANANA FISH巡礼をしている人は、けっこういて、サイト上に情報が飛び交っているので、ニューヨークを訪れる際はチェックしてみるといいですよ。また、連載直後には、「BANANA FISH MEMORIAL」という本が出版され、舞台となったニューヨーク地図入りで解説されているそうです。もう中古販売しかないので、入手困難なものになっています。
(しかも結構高額で取引されています。)

■うっかり手を出すと、大変なことになるので注意
BANANA FISHは、はっきり言って読み始めると止まりません。「読み終わった後は、抜け殻になってしまう」とたくさんの人がネット上に書き込んでいますが、まさにそうです。のめり込んでしまい、何も手につかなくなります。なので、興味を持った方は、読むタイミングに十分注意してください。受験やテストを控えていないか、仕事は繁忙期ではないか等、もろもろ確認して、時間がたっぷりある時に、万全の体制で読み始めることをおすすめします。涙もろい人は、読む前にティッシュ箱とペットボトルの水を用意しておくと◎です。

<プロフィール>
ライター名:koga

女子高時代、ガリ勉以外のすべての時間を漫画に費やし、漫画の世界に逃避行を続ける。現在は、その当時に磨いた妄想力を活かしてライター業に勤しむ。