絶対可憐チルドレン(作者:椎名高志)

美少女エスパーたちが縦横無尽に活躍するSFギャグアクションコミック『絶対可憐チルドレン』を紹介します

絶対可憐チルドレン』は週刊少年サンデーにて2005年から連載中のSFギャグアクション漫画です。現時点でコミック単行本が48巻まで出版されており、テレビアニメ化、OVA化もされています。

舞台となるのは2010年代の日本。ただし、この世界では多くのエスパーが普通に暮らしています。
なかでも「超度(レベル)7」と言われる最強力クラスのエスパーは戦略核兵器にも匹敵する重要な存在。日本では「バベル」という特務機関がそうしたエスパーの発掘と育成を試みているのですが、国内で存在が確認できたレベル7は三人しかいません。それも我儘いっぱいな小学生(物語開始時点)の女の子たちだったのです。
彼女たちは親元を離れて共同生活をしながら、「ザ・チルドレン」というコードネームを持つ特務エスパーチームを組み、重大災害や事故の防止、人命救助、凶悪な超能力犯罪者の制圧などに駆り出されています。
本作は、そんな子供たちの成長の物語であり、超能力アクションコメディSFですが、同時に、それを見守る大人たちの葛藤・挫折・対立・連帯などを描いた群像劇でもあり、タイムパラドックスの絡む大河SFドラマというべき要素まで併せ持つ、奥行きの深い作品です。

女の子たちの成長の物語

可愛いが可愛げのない超強力エスパー少女たち

まずは最重要登場人物、「ザ・チルドレン」のエスパー少女たちを紹介しましょう。

  • 明石薫
    サイコキノ(念動能力者)。ヘリでも戦車でも軽く吹っ飛ばす力の持ち主。戦闘はもちろん、シールドを展開して銃弾などを弾いたり、仲間を引き連れて高速飛行したり、その力の応用パターンは多彩。活発な性格で、自然にチルドレンのリーダー格となっています。
  • 三宮紫穂
    サイコメトラー(接触感応能力者)。手に触れた物体の情報をなんでも読み取ってしまいます。人であれば思考を読み取れるし、機械や道具であればその使い方を一瞬のうちに理解できます。その能力を格闘や射撃にも応用できるため、戦闘力もかなりのもの。普段はクールな毒舌家ですが、じつは熱情的な一面もあり、三人の中では一番複雑な性格かもしれません。
  • 野上葵
    テレポーター(瞬間移動能力者)。連続瞬間移動で何千キロという距離を実質的に音速の数倍のスピードで移動できます。また、小刻みにその場での瞬間移動を繰り返すことで空中浮遊状態を保つこともできます。犯罪者を建物の壁内にテレポートして拘束したり、薬物を病人の体内に直接投与して医療面で力を発揮したりもできます。本来は弱気な性格でしたが、薫や紫穂の影響でずいぶん強くなったようです。

彼女たちは常に偏見と敵意にさらされています。強力すぎるエスパーは、普通人にとっては便利な道具であると同時に、得体のしれない脅威なのです。エスパー対応が専門であるはずのバベルすら例外ではないのでした。
彼女たち3人は、周囲に信頼できる人を持たず、何事についても自分たち同士でかばいあうしかありませんでした。大人たちの多くがそんな彼女たちを冷ややかに見ていました。

チルドレンの3人が出会ったのは4歳の時。それ以来いつも一緒。

父親あるいはお兄さん役の指揮官 

ザ・チルドレンの3人は指揮官・皆本に全幅の信頼を寄せる。

そんなときにザ・チルドレンの指揮官に抜擢されたのが、皆本光一という青年。彼は小学生の段階で大学院生レベルの学力を発揮するほどの大秀才であり、気鋭の超能力研究者なのですが、人柄・状況判断能力・統率力なども申し分なく、料理もスポーツもうまい完璧人間です。
彼は、エスパーへの偏見をもたず、口うるさく叱りつけながらもチルドレンに対等に接します。
少女たちは彼にほどなく強い信頼を寄せるようになります。彼の指揮下で実績を積み重ねたザ・チルドレンは、バベルのトップエースチームとして誰もが一目置く存在となります。
物語開始時点で10歳だったチルドレンは中学生・高校生と成長し、そのなかで薫は、皆本への恋愛感情を自覚するに至ります。
皆本のほうでも薫に対して監督者以上の感情を持ち始めているようなのですが、頭はよくてもニブイ彼は今一つそのことを自覚できていないようです。この二人の行く末はどうなるのでしょうか?


チルドレンの小学生時代(左)と高校生時代(右)。ガサツで男の子のようだった薫も美しく成長。

胸がすく超能力アクション

成長譚・群像劇としての完成度もさることながら、やはり本作の魅力としては超能力バトルアクションの爽快さを挙げなければなりません。SFアクションはやはり理屈抜きで楽しいですよね。
なんといっても、薫の派手なバトルは見逃せません。直情的で仲間思いの彼女は、皆の安全を確保しつつミッションを成功させるべく、いつも先頭にたって力をふるいます。空中を自由に飛び回れるので、バトルも三次元的です。
バベルはエスパーたちの活動を側面支援するための陸海空の軍事力や高度な科学技術研究施設を持っている設定で、007ばりにさまざまな小道具が登場します。たとえば紫穂は専用のワイヤーガンを支給されており、敵を拘束したり電撃で制圧したり、薫とはまた違うパターンでアクションシーンを演じます。
チルドレンのほかにも、バベルでは様々な得意分野を持ついろいろなエスパーたちが活動しています。また、敵方にも次々ユニークな能力者がでてきて様々な攻撃を仕掛けてくるので、バトルのシーンは飽きることなく楽しめます。


銃弾もミサイルも薫のサイコキネスの前には無力である。

過去から未来までつながる大河ドラマ

さらに主人公たちには、過去からの因縁をかかえたアンチヒーローの対決、未来において勃発する大問題の解決などの試練が与えられており、これが物語に深みを与えています。

強力なエスパーで権謀術数にたけた「パンドラ」のリーダー、兵部恭介。

バベルとザ・チルドレンたちの前に立ちふさがる敵の一人が、兵部京介。テレポート・サイコキネス・ヒュプノと幾つもの超能力を行使でき、実年齢80歳オーバーであるにもかかわらず若者の姿(学ランを愛用)を保ち続けている怪人物です。
彼は、半世紀前の戦時中に存在した超能力部隊(陸軍超能部隊)の生き残り。もともとは純真な青年でした。しかし、信頼していた上司に裏切られ殺されかけたことから変貌。「パンドラ」という地下組織を作り、大勢のエスパーと共に非合法活動を繰り返しています。虐げられている子供のエスパーたちを多く保護する一方で、邪魔者は躊躇なく殺戮する犯罪者です。


大人になったチルドレンは、バベルと対立する非合法エスパー集団「パンドラ」のリーダーになるというのだが?!

実は物語開始後ほどなく、薫と皆本との間には衝撃的な未来が待ち受けていることが明かされます。未来予知によると、エスパーと普通人との対立が深刻化し、10年後には戦争が勃発。チルドレンたちはバベルと決別してパンドラのリーダーとなっています。
薫は皆本と戦場で対峙。そして皆本に射殺されるというのです。
この未来予知のことを兵部は軍隊時代から知っています。そして、チルドレンたちとともに普通人たちに一矢報いようとしています。このため彼はバベルに頻繁に干渉し、チルドレンに対してはきわめて丁重に対応します。最終目的は違えど薫の死を阻止したいという点は共通なので、兵部とバベルとのやり取りは複雑になります。
さらに、その戦争の背後には、エスパーを洗脳したうえ兵器として売買している「ブラックファントム」という組織の暗躍があることがわかってきます。皆本とバベルはその邪悪な活動を阻止し、薫の非業の死を防ぐことができるのか? これが物語前半のテーマとなります。

どんなシリアス展開でもギャグを忘れない登場人物たち

チルドレンの3人は皆本を慕いつつも情け容赦ないツッコミを忘れません。そのノリは往年のいかりや長介と志村けんのよう(といってもわからない人のほうが多いか……)。他にも、チルドレンを溺愛し、学校の文化祭をサポートするためだけに陸海空全兵力を動かそうとするバベル局長とか、オネエ言葉を操り股間から怪しいビームを放ちながら皆本に迫る敵エスパーとか、脇役にも芸達者なキャラが豊富です。話の展開がどんなに深刻化しても読んでいてツラくならない椎名高志の筆さばきはさすがです。

今後の展開は?

物語後半はブラックファントムとの対立が物語の主軸となります。利害の一致を見たバベルとパンドラの間にも奇妙な連帯が生まれるなど、人間関係も複雑になっていきます。
最新のエピソードでは、ブラックファントムの魔手がついにバベル中枢に及び、バベルの幹部やエスパーたちが軒並み洗脳されてチルドレンたちに敵対してくるという厳しい展開となっています。
孤立無援に陥ったザ・チルドレンと皆本たちは救われるのか? 薫と皆本の恋の行く末は? 物語は折り返し点を過ぎ、結末に向かって走り出そうとしています。終わりまで目が離せません。

プロフィール
Kdoi01  50代 茨城県出身
生物学の研究に長年携わっていましたが、仕事環境は超不安定。そこで、セカンドライフの確立を模索し始めました。文章を書くのは好きだったし本業でも必須スキルなのでちょっと自信あり。それを活かしつつ、できれば、大好きなSFや漫画、そして音楽に絡む仕事もできればいいなあ。